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コラム

1.自己紹介
 丸橋先生にご紹介いただいた岡本満喜子と申します。
 先生には、私が弁護士登録をした平成10年4月からお世話になり、会計帳簿の見方から実地訓練による土地の境界の調べ方まで、弁護士としての基礎を徹底的に教えていただきました。
 その後先生のお許しを得て、平成14年に早稲田大学大学院の人間科学研究科に入学し、平成22年に、博士号(人間科学)を取得しました。
 また、平成18年から平成21年にかけて、任期付公務員として国土交通省に勤務しました。
 今回は、私が大学と国土交通省で取り組んでいた、「事故はなぜ起こるのか?」ということについてご説明したいと思います。

2.法律上の責任を問えばいいのでは?
 車と歩行者が衝突して、歩行者がけがをしたとします。
 この事故は、なぜ起きたのでしょう?
 車のドライバーが前をよく見てなかったとすると、ドライバーには「前方不注意」という「過失」があり、刑事では自動車運転過失致傷罪、民事では損害賠償責任を問われます。法律上の責任は、これで一応、一件落着です。
 でも、事故は防げるでしょうか?
 法律上の責任を問われれば、人は事故を繰り返さないよう、気をつけはするでしょう。
 でも、ドライバーが前を見ていなかった原因が「あせって注意する余裕がなかったから」だとすると、遅刻だ!とか、せかされた!といった「あせる状況」になったとき、同じことを繰り返すのではないでしょうか。
 そこで、事故を防ぐには、「前方不注意」といったエラーの背後に何があったのか?を掘り下げていく必要があります。

3.人間のエラーにはどんなものがあるの?
 人間のエラー、いわゆるヒューマンエラーには、意図せずしてしまう「うっかりミス」と、ダメだとわかっているけどやってしまう「不安全行動」があります。
「うっかりミス」
 私の事ですが、今朝、テレビをつけようとリモコンのボタンを押したらエアコンが動き出しました。2階に上がったものの何をしに来たのかわからなくなりました。受話器を耳に当てながら電卓をたたき、電話がかからないと不思議に思いました。これらは「うっかりミス」です。半日の間にしらふでやらかしており、困ったものです。なお忘れ物はしょっちゅうで、先日も某電鉄会社の「お忘れ物センター」にお世話になりました。
 「うっかりミス」は、あせりや緊張しすぎ、逆に作業に慣れて気がゆるむ、作業中に他の事に気をとられるということで起こります。また、眠い、疲れた、風邪をひいた等の健康上の理由も原因になります。私のエラーの原因は主に「眠い」です。
「不安全行動」
 これに対し、「赤信号みんなで渡れば怖くない」や、ちょっとそこまでだからシートベルトを締めないというようなルール違反は、「不安全行動」です。
 「不安全行動」は、みんなも(ルール違反を)やってる、ルールを守らなくても危なくない、守ると不利益(手間がかかって面倒くさい)と思うことで起こります。

4.エラーを防ぐにはどうしたらいいの?
(1)エラーを防ぐには組織的な取組みが必要
 私個人のリモコンのボタン押し間違いであれば、テレビをつけ損ねて「今日の占いカウントダウン」を見逃し、1人がっかりするだけですみますが、これが会社だとそうはいきません。例えば、パイロットが飛行機のボタンを押し間違えたのであれば、墜落の危険すらあります。
 そして、このヒューマンエラーは、いつでも誰にでも起こりうるのです。なぜなら、3.のうっかりミスと不安全行動のところを見てください。自分の失敗談を書いていますが、心当たりのある方もおられるのではないでしょうか。
 このようなヒューマンエラーを防ぐには、個人の心がけも大事ではありますが、それだけでは中々防げません。なぜなら、注意喚起だけでヒューマンエラーを防ごうとすることは、「常に集中しろ」「でも疲れてはいけない」「夜も眠くなってはいけない」「状況がわからなくてもパニックになるな」と言っているようなものだからです。
 飛行機、電車、バスやタクシー、トラック、船を動かす人にとって、もし事故が起きると自分だけでなく乗客の命も危険にさらすことになりますから、ヒューマンエラーによる事故を防ぐことは特に大切です。
 そこで、これらの輸送会社では、「安全な運行」を現場の運転者・操縦者に任せきりにするのではなく、会社全体としてヒューマンエラーを起こさない体制を作ることが重要になります。
(2)組織としての取組みとは
 会社として安全を守るには、なんと言っても社長さんをはじめとする経営陣の「やる気」が大切です。
 その上で、安全に関する会社の弱点を知り、取り組み計画を立てることになります。この弱点を知るには、会社の中のいろんな人から意見や気づいたこと等の情報を集める必要があります。その中で問題がみつかったとしても、注意喚起や個人の責任追及だけではなく、あせりや疲労等のエラーが起きている真の原因を調べ、個別の原因に応じた対策をとっていく事が重要です。
 この対策も、やりっぱなしではいけません。計画通りできたか?効果はあったか?ということをチェックして、常に見直しをする必要があります。
 このような、輸送事業者として安全のために取り組んでほしいことをまとめたのが、平成18年にできた「運輸安全マネジメント制度」です。そして国は、会社の構築した安全に取り組む体制(「安全管理体制」といっています)がうまく回っているかをチェックしています(「運輸安全マネジメント評価」といいます)。
私は国土交通省時代、「運輸安全調査官」という名前でこのチェックを担当していました。理想と現実の狭間で右往左往することが多かったというのが感想ですが、相反する理念(安全最優先と利益追求など)の折り合いの付け方や、相手の本音を聞き出すという部分で、弁護士の経験が役に立ったと思います。また、こちらが提案した安全への取組み方法について、試験的な実施の結果、効果があったということで事業者の方が全社的に導入され、200を超える運転者のグループで今も取り組みが行われているということを聞いたときは、やりがいがあったと感じました。

5.ヒューマンエラーと責任追及
 さて、事故の原因追求というときに、厳しく責任追及がされるせいで当事者が本当のことを言わず、真実の解明ができない。その結果、事故の再発防止策が十分でない、という指摘がされることがあります。
 事故の責任追及と原因追求の関係は難しい問題であり、くわしくは機会があれば書きたいと思いますが、社会秩序の維持等の点から一定の責任追及は必要と思われます。
 では、現在の責任追及のあり方は、一般の人の感覚に合っているのか?というのが、早稲田大学での研究テーマです。
 交通事故の場合、裁判所や弁護士会が作った過失割合の認定基準というものがあり、実際の事件はほぼその基準に基づいて解決されています。でも、この基準は一般の人の感覚に合っているのでしょうか?
 結論から言うと、大体感覚は合っていました。ただ、大学生の場合、当事者がどっちも悪い事例(例、車対歩行者の事例で、歩行者優先だが歩行者が赤信号を無視した)で判断に迷い、基準と判断に差がありました。また、法科大学院生は、基準が「歩行者救済」のために歩行者の過失割合を少なくしている事例でも、道路交通法の定めに忠実に、歩行者の過失割合を重く判断しました。

6.エラーやトラブルを防ぐために弁護士にできること
(1)事後的な責任追及では
 事故が起きた後の責任追及という側面で、5の調査により、一般の人の感覚と基準が離れていて紛争になりやすい事故がわかってきたので、紛争解決に当たり、丁寧な説明や説得を心がけたいと思います。また、法律家が陥りやすい感覚(法令最優先)に陥らないよう、気をつけたいと思います。
(2)「トラブルの芽」の解決
 また、事故が起きる前の段階でも、「事故の芽」をつんでいくことが大切です。
 これは、交通事故だけでなく、その他の法律上のトラブルについても同様です。
 小さなルール違反を放置しておくと、それがだんだん大きなルール違反を呼び集め、最後は取り返しのつかない不祥事につながるといわれます。
 大きな問題になる前に「トラブルの芽」を見つけ、それを早期に解決するのも、弁護士の役割だと考えます。弁護士の経験、そして国土交通省、早稲田大学での経験を生かし、幅広い分野で事故やトラブルが起こる前の「予防」ということにも取り組んでいきたいと思います。

岡本 満喜子

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