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コラム

弁護士の丸橋です。
 本年(2011年)8月1日から、事務所に新しく村岡悠子弁護士が加わりました。
 村岡弁護士の経歴等はメンバー紹介をご覧下さい。

1.ところで、当事務所では従来から投資被害事件を多数扱ってきました。
 従来からある投資被害事件では、商品先物、証券取引(主に株式取引)、変額保険などがあります。
 変額保険を除いたこれらの共通項は、商品先物も株式も価格が変動するもの(相場商品)であり、価格変動により利益を得ることもあれば損をすることもある、ということです。
 被害にあう方には、これらが価格変動するということ自体を理解されない方々もおられ、そのような方々にこれらの商品を勧誘すること自体違法性を帯びます。(適合性の原則と言っています)
 また価格変動すること自体は一応投資の理解できる場合でも、投資経験が乏しいなどの理由で、確実に利益が出るとの勧誘(断定的判断の提供)や、合理的な理由が無く短期間に多数の売買を繰り返す(過当取引)などの行為により、被害にあわれる方々がいます。
 これらは従来からあった投資被害であり、江戸時代や明治時代を舞台にしたドラマで「相場商品(この時代では、米相場や生糸相場)には手を出したらあかん」と人生の経験を経た方が若い方に注意していたのと同じ性質の商品です。
 このような相場商品による被害は、現在も続いているのですが、今回お話ししたいのは、このような相場商品ではない、又は相場商品とはわかりにくい形態をとった金融商品についてです。

2.預金や債券(国債や社債)は、本来元本が保証された金融商品です。
 元本が保証されたというのは、借り主(銀行や債券の発行者)が元本の返還を約束しているという意味で、借り主が倒産すれば元本を回収できないことがあり、だれかが代わりに元本を返してくれるという意味ではありません。
 ただ、そのような非常事態でない限り、元本と利息は返ってきます。
 ところが、最近では債券という形式をとりながら、元本の返済が保証されていない商品が増えてきています。
 たとえば、皆さんが銀行や証券会社に行って外債(外国の通貨建ての債券)を購入しようとします。(新聞やチラシの広告でも同じです)
 そうすると、デュアルカレンシー債というものを勧められます。
 これは満期に償還される金額が、当該外貨か円のどちらかで償還つまり返済されるという債券です。
 通常の当該外貨の債券に比べて、少し利回りが高くなっており、それをセールスポイントにしています。
一見有利な金融商品に思えます。
 でもよく検討して下さい。
 デュアルカレンシー債は、当該外貨か円で償還されるのですが、どのような場合にどちらの通貨で償還されるのでしょうか。
 実は、二つの通貨の内、お客さん(債券購入者)に不利な方の通貨で返済されるのです。
 例をあげてみましょう。
 1米ドル80円の時に、800万円で額面10万米ドルのデュアルカレンシー債を購入したとします。
 これがデュアルカレンシー債券でない通常の米ドル債券でしたら、満期時に1ドル100円の円安になっていれば1000万円(10万米ドル×100円)が返ってきます。(為替手数料は無視します)
 1米ドル60円の円高でしたら、600万円(10万米ドル×60円)が返ってきます。
 つまり、円安になれば返還額が増え、円高になれば返還額が減少します。
 このような為替差損、差益が発生します。
 デュアルカレンシー債であれば、商品設計によって多少の変動はありますが、円安の場合は800万円(つまり購入円価格)が返還され、円高の場合は10万米ドルで返還されます。1米ドル60円の円高であれば、600万円(10万米ドル×60円)になります。
 さきほどの通常の米ドル債と比べますと、円高の場合は通常の外債でもデュアルカレンシー債でも債券購入者に為替差損が発生します。
 これに対して、円安になった場合は、通常の外債であれば為替差益を所得することができるのですが、デュアルカレンシー債では為替差益は所得できません。
 つまりデュアルカレンシー債は、二つの通貨(デュアルカレンシー)の内、債券購入者に不利な通貨で返還される債券 、表現を変えますと為替差益の発生可能性を放棄して為替差損のリスクのみを引き受けることによって多少利回りが良くなった債券ということができます。
 商品設計としては、今の例では、債券購入者は、10万米ドルの通常の債券を購入するとともに、1米ドル80円で米ドルを購入する(又は円を売却する)権利というオプションを売却するということになります。
 このオプション売却代金分利回りが良くなったように見えるわけです。
 このオプションは、オプション購入者に不利な円高の時は行使されませんので、満期には普通に10万米ドルで返ってきます。1米ドル60円の時、つまり60円で1米ドルを購入できる時に、オプションを行使して80円を支払って1米ドルを購入する方はないからです。
ところが、円安(たとえば1米ドル100円)になった場合、オプションを行使すれば、本来100円で1ドルを購入しなくてはならないところを、80円で購入できるわけですから、オプション購入者はオプションを行使します。
 その結果、債券購入者は本来100円の価値がある1米ドルを80円で売却することになるわけです。
 こうしてみますと明らかなように、デュアルカレンシー債は、為替手数料や発行体の信用を無視しますと、経済的には為替リスクを引き受けるのと引換に多少利回りが良くなった円建て債券ということができます。
 為替リスクを引き受けているとわかっていれば、一般の方々はデュアルカレンシー債を購入することを躊躇するはずです。
 しかし現実にはどのような条件の場合にどのような通貨で償還されるかは説明として記載されていますが、それが債券購入者が為替リスクのみを引き受けているのだということは明記されておらず、債券購入者は為替リスクを負担していることを理解していないのではないでしょうか。

3.デュアルカレンシー債が最近やたらと目につきますので、デュアルカレンシー債を例に話をさせていただきましたが、同じような構造の金融商品(債券等)は他にもあります。
 当事務所が過去に受任したものでは、一時期流行しました他社株転換債(EX)があります。
 これも債券なのですが、ある株式(たとえばソニー)の価格がある価格以下になった場合は、満期には債券の額面ではなくソニー株で償還されるというものです。
 たとえば、債券発行時点でソニー株は1株1000円としましょう。
 債券の額面は100万円で、満期には100万円かソニー株1000株で償還される、ソニー株で償還されるのは債券発行から満期までの間にソニー株が800円以下に下落した場合、利回りは通常の債券より多少良い、というものです。
 これもデュアルカレンシー債と同じで、通常の債券を購入するとともに、ソニー株が800円以下になった場合はソニー株を1000円で売却できるという権利(プットオプション)を売却し、そのオプション売却代金分利回りが多少高くなるという商品です。
 ソニー株が800円以下になった場合は、債券購入者は額面金額100万円が返還される代わりに800円以下の価値のソニー株1000株(評価額80万円以下)を受け取ることになります。
 私自身は事件も担当しましたが、この他社株転換債の被害事件が話題となる前に証券会社から他社株転換債の加入を受けたことがあります。
 ソニー株が800円を下回ったらソニー株で償還されます、利回りはいくらです、という程度の説明を受けました。私は、どういう商品設計なのかな、としばらく考え、上記のように要はプットオプションを売却するのだということに気がつき、証券会社の担当者(複数いました)にこういう商品設計ではありませんか、と質問したところ、証券会社の担当者から、なるほど、そういうふうになっているのですか、と言われたことがあります。
 こういった仕組み債では、証券会社の営業員も商品内容をちゃんと理解していないのです。
 また、当事務所が現在担当している事件では、日経平均株価がある価格以下に下落した場合に、額面価格が下落した日経平均価格に連動して減額される(他にもややこしい内容がついていますが、主要な点はこれです)という債券の被害があります。これは日経平均オプションが債券に組み合わされているのです。

4.こういった仕組み債が怖いのは、デリバティブを組み合わせているため、商品内容及びその商品のリスクがわかりにくいと言う点がまずあります。
 そしてそれとともに、というか一般消費者が巻き込まれやすい原因として、債券という形式をとっており、額面価格が記載されていますので、債券購入者は元本(額面価格)返還が保証されているものだ、つまり価格変動リスクがそもそも存在しない、という認識が固定観念になってしまっている点です。
 これは過去に社会問題になった変額保険でも同じです。
 変額保険という商品が認可されるまで、生命保険は利回りが保証されており(定額保険といいます。)、死亡リスクへの備えになるとともに、確実な貯蓄として認識されていました。
 私は変額保険の事件を多数担当しましたが、被害者の方々は、保険契約当時、生命保険に加入して保険金(変額保険事件では解約返戻金)が減額する可能性があるなど、思いもかけなかったのです。
 もちろん、説明書面には一応の説明がなされていたのですが、それ以上に生命保険とは損失が発生することがないものだという固定観念が一般にあり、形式的な説明やメリットを強調する勧誘では、固定観念にある生命保険とは違うということがわからなかったのです。

5.こういった仕組み債が後半に出回っているのは、一方では、低金利時代で銀行、証券会社として少しでも利回りを高くして有利な商品として勧誘したいという面があります。
 すでに説明していますように、利回りの代わりにリスクを負うわけですので、私にはとても消費者に有利な商品とは思えませんが。
 そしてもう一つは私の偏見かもしれませんが、こういった仕組み債ではデリバティブが組み合わされており、そのために参加するプレイヤーが通常の債券よりも増えそれらのプレイヤーに手数料(フィー)が発生します。これらのプレイヤーも銀行や証券会社のグループですので、全体として銀行、証券会社の手数料収入が増加するというメリットが銀行、証券会社側に発生するからだと考えています。
 これは裏返しますと、余計なコストをよくわからないように仕組み債に組み込んであるということであり、消費者に隠れた損失を押しつけているのではないか、と考えています。

6.以上は、一般消費者に販売されている仕組み債についてです。
 現在、デリバティブを組み込んだ商品は多数有り、一般消費者だけでなく、企業や公共団体までがデリバティブを組み込んだ商品の被害を受けています。
 兵庫県内の自治体が通貨オプションで巨額の損害を被ったとして金融機関に対してADRの申請をした(する予定?)という記事も新聞に大きく出ていました。
 当事務所でも、企業からデリバティブによる巨額の損失についての相談を受けています。
 仕組み債もデリバティブも、金融機関(銀行や証券会社)に大きな手数料収入(フィー)が発生するとともに、金融機関はカバー取引(顧客とのデリバティブとは逆方向のデリバティブ取引を別の相手方とすること)によってデリバティブによる金融機関自身の損失発生のリスクは回避しています。
 つまり金融機関にとって、リスクが無く確実に手数料収入をえられる取引になっているわけであり、これからも金融機関はデリバティブを組み込んだ商品を積極的に販売するでしょう。
 私自身はデリバティブを組み込んだ商品を仕事の関係でいくつか見ましたが、金融機関のメリットはよくわかるのですが、顧客(消費者や企業)にとってのメリットがどこにあるのかがわからないものがほとんどでした。
 これは常識的なアドバイスになりますが、どんなに得だ、有利だと言われても、自分で内容が充分に理解できないものは避けなければなりません。
 特に金融機関が持ちかけてきた話には。

丸橋 茂

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